サックスプレイヤー 前田サラさん。ファンキーでソウルフル!とは今までよく形容されていた言葉たち。しかし今回のインタビューでは、それらを上回る ロック!な魂がサラさんにはあると確信しました。サラさんの音楽の原点にあるもの~大きな出会い~いま気になる若手アーティストetc. お話しいただきました。 (2017.3)

–サックスをはじめたきっかけは?

中学生のときにブラスバンド部に入ったのですが、どの楽器を選んだらいいかわからなかったんです。お父さんに相談したら「サックスがいいんじゃない」と。 ところが、第二希望のクラリネットになっちゃった。だけどサックスはソロが多いしかっこいい楽器だなと思って…… 。 あきらめられなくて、部活にはいって三ヶ月目に、自分の貯金とお父さんの援助をあわせて25,000円のサックスを買いました。初めて手にしたCDはキャンディ・ダルファーの「Sax-A-Go-Go」です。そして、デイヴィッド・サンボーンとかメイシオ・パーカーもよく聴いていました。中二のころは特にサンボーンやキャンディは耳コピをしまくっていましたね。部活でクラリネットをやりながらだったけど、時間を見つけては、ずっとひとりで練習してました。

–お父さんも音楽をやっているんですよね

父は教会の牧師なのですが、元々シンガーソングライターを目指してました。いろんな音楽聴いていて。ビートルズが一番好きだったと思うんですが、ビリー・ジョエル、ボサノヴァの頃のスタン・ゲッツ、RCサクセション、東京スカパラダイスオーケストラ、ボブ・マーリーも。その影響で私も幅広い音楽を聴いてました。

–こどものころは九州に住んでたと伺いましたが

転勤族だったんです。生まれは福岡で7歳までいて、長崎、神戸…… 16歳のとき、進学のタイミングで東京に引っ越してきました。けれど、勉強が嫌いだったこともあって高校には行かなかったんです。両親は、音楽をやる、っていったら理解してくれました。それで、うちは大家族なのでアルバイトをして家計を助けながら、サックスも習いはじめたんです。バイト、練習、レッスン、という日々です。一年半くらい経ったある日、先生が「そろそろジャムセッションとか行ってみれば」と。 行ってみたら、小学生みたいなルックスの子が(笑)バーって吹いたので、会場がわーってなって。それからセッションホストをやっていたプロミュージシャンに声をかけてもらったんです。
その方のバンドのサックス奏者を紹介していただいてローディーをさせてもらうことになり、ときどきステージで吹かせてもらったりしていました。まだ10代でしたが、ビルボードとかブルーノートのステージにも…… 。
けれど、いろいろありまして、そのひとたちの元を離れることになりました。
一旦周りに音楽仲間がいなくなってリセットの状態になったときに、中村達也さんと奇跡的な出会いがあったんです。


–中村達也さんとの出会いを詳しくきかせてください

高円寺の環七沿いの教会に通っていたとき(お父さんが牧師さんで、子供の頃からよく教会で演奏していた)教会の中で練習したいなと思っていたら、他の楽器の人がサウンドチェックをしていて… …環七沿いなら車がぶんぶん走っているし、吹いてもいいかなと思って、ほんの5分程度でしたが教会の外で練習していたんです。そしたら、ライジング・サン(ロックフェス)帰りで、偶然通りかかった中村達也さん(ドラマー・ex-BLANKEY JETCITY)が、サックスの音が聴こえるな……と。吹いていたわたしの姿を見つけ、これは声をかけなきゃと思ってくれたみたいで。けれど、達也さんが歩道橋を渡ったタイミングで、わたしは教会に入ってしまったんです。ところが4時間後くらいに、高円寺の駅前で再び会って、「さっき環七でサックス吹いてた子だよね」と声をかけられて。

–びっくりしたんじゃないですか?

わたし、達也さんがどんなひとかまったく知らなかったんですよ。ドラマーだというけど、いかつい感じだし、そのときは高円寺によくいるバンドマンかな、くらいにしか思わなかったんです。名前だけお互い交換して別れました。達也さんもシャイな人なので連絡先の交換はしなかった。またいつか会えたらいいね、みたいな感じで。ところが、あとでネットで調べたらすごい人だとわかって……。その一ヶ月後、知り合いが「中村達也ってドラマー知ってる?」と父に話しかけて急展開しました。「娘が声をかけられたひとじゃないかな」「そうなの?実は達也さん友達なんだ」って。笑 で、その知り合いを通じ、達也さんと連絡先を交換することになり、ようやく繋がりました。

ちょうど達也さんと繋がったその時、いろいろあって、落ちている時期でした。自分の演奏を否定され自信を失くしていたんです。けれど達也さんの出演するライブを観にいったら、ほんとにすごくて、達也さんの純粋なミュージシャンとしての姿にはげまされたんです。ある日、達也さんのライブを観に行った帰りでした。達也さんが「今度一緒にやろうぜ」っていってくれて……。でも自信なくて「いや、わたしそんなにうまくないですよ」と。だけど達也さんは「うまいやつはゴマンといるけど心に届く演奏できるやつはそんなにいないんだぞ」「環七でサラの演奏を聴いたとき、ガビンときたんだよ」って。その言葉があったからこそ、ここまで自分らしくやってこれたんじゃないかなと思います。

ライジング・サン・ロックフェスに出演して帰ってきた達也さんが、環七でわたしを見つけてくれてから、ちょうど5年後でした。達也さんのバンド「the day」[仲井戸麗市G, 中村達也Ds, 蔦谷好位置Key, KenKen(B)+ 前田サラsax]で、そのライジング・サン・ロックフェスに出演しました。それも運命的というか……。本番前日、インスタで達也さんがわたしと出会ったときの話を長文で書いてくれて。達也さんにとっても特別な出会いだったと……。達也さんのまわりのひとは、みんなわたしのこと知ってくれていたし、すごい有名なひとたちも私のこと知ってくれていたり……。 達也さんは音楽の恩人です。

–デビューのきっかけは?

達也さんのバンドをやりつつ、19歳のころにはじめた自分のバンドで活動していたのですが、23歳のとき、バンドのライブを観たビクターのかたに声をかけていただいたんです。日本を代表する様なサックス奏者も担当している方で、すごく厳しい人でしたが、毎回ライブを観に来てくれました。ずいぶん辛口なことをいわれましたが、興味は持ってくれているんだなと。メジャーでCD出すって難しいことなんだなと思い知らされました。

2014年の年末でした。初めて自分のやりたかったバンドサウンド、自分の音が、「出せたな」って思えたんです。観に来てくれていたビクターのかたも「自分のやりたいことが見えたみたいだね。そろそろとりかかろうか」と。そしたら翌月にメールがきて、リッキー・ピーターソンのプロデュースでCD作るのはどう? って。驚きました。わたし、デイヴィッド・サンボーンが大好きで、サンボーンが90年代にリリースした、ソウル、ファンクにテーマを置いたサウンドのアルバムがとくに好きなのですが、そのアルバムでオルガン弾いてるのはリッキー・ピーターソン。わたしのサウンドにはルーツミュージックやゴスペルが基盤にあって、オルガンは外せない音なんです。
それはもう、「ぜひお願いします」と。


–リッキー・ピーターソンはアドバイスくれたりしたんですか?

好きに吹いていいよ、という雰囲気でした。レコーディングのとき、フレーズの謳いかたをアドバイスしてくれましたが、基本的には自由に、って感じで。
レコーディングメンバーは、ドラマーのマイケル・ブランドをはじめ、プリンスファミリーが中心だったんです。超一流のミュージシャンたち。リズム隊は強力だったし、曲の理解が早くて……いいものを作るためには一切妥協せず、一丸となるんです。自分の足りなさもそこで痛感しました。5日間のレコーディングはとてつもない経験でした。

–2015年にビクターからデビューアルバムが発売されて、その発売ツアーの最終日に、ジロキチで演奏してくれました。勢いのあるバンドサウンドの一体感や気迫がすばらしくて、びっくりしました。こりゃすげぇな、ロックバンドみたいだって。

…… ところで、ジロキチという店についてはどんなイメージを持たれていましたか。

ジロキチすごい大好きです。音も、雰囲気も。高円寺に住んでいたということもあって、ホーム的な感覚があります。最初に出演したのは、21歳のとき、わたしの主催のセッションで、達也さんがドラムでした。そのときは敷居高いイメージ。すごいひといっぱい出ているし、ちょっと登竜門的なイメージはありました。今度のライブ(3/27)は戻ってくる、みたいな、ちょっとバタバタしてたけど、久々に家に帰れるぞ、という感じがあります。

–曲作りは普段どのようにしているんですか

思いついたフレーズをスタジオに持っていって、バンドメンバーと一緒に作っていくというのが多いですね。

–じゃぁほんとにバンド志向な感じなんですね

そうですね。今度のジロキチのライブでは、そうやって新しく作った曲をやるつもりです。

–ジャズの理論とか譜面とかバッチりなひとって、すごいと思うけど、どうしてもお手本的なサウンドになりがち。バンドっていっても、パーって吹いて周りがそれをサポートするみたいな感じになりやすい。でも、サラちゃんのバンドは完全にロックバンドだなと思って……

わぁ嬉しい! それはやっぱり目指してたっていうか。あるサックス奏者のライブを観にいったときに思ったのですが、メンバーは、うしろでサウンドを支えることに徹してる。でも「the day」とかロックバンドをやったりするとそういうのが、すごく物足りなく感じてしまって。やっぱり自分のバンドでも、とくにファンクっていう音楽はバンドであるべきっていうか、反応しあって、グルーヴして、うねりにうねってうねらして、トランスしていく感じが必要不可欠だと思っています。バンドメンバーにはこういう音でやりたいとか、コンセプトをはっきり伝えて。全曲オルガンでまとめてみませんかとか、ギターはブルージーな感じで、とか。
デビューアルバム作るときも同じでした。リッキーに、サックスだけ前に出ているようなワンマンな感じじゃなくて、各メンバーがフィーチャーされる場面があったり、みんなが音に反応しあっているような雰囲気で作りたいと伝えました。

–BimBamBoomについておききたいしのですが

ビンバンブーンは、プロデューサーのエスケンさんとdetroit7のドラムだった山口美代子さんが再会して、美代子ちゃんバンドやったらいいんじゃない? と。
美代子さんはルーツミュージックやニューオリンズファンクが好きだったから、ギャラクティック(ニューオリンズを拠点にするジャムバンド)みたいな雰囲気でやるのがいいんじゃないか、女の子でやったら面白いんじゃないかって。それでメンバーが集められ、最初は4人(田中歩Key  Maryne(B) 岡愛子G 山口美代子Ds)でやっていたんですが、フロント楽器が欲しいね、サラちゃんどうかな、って。エスケンさんもわたしのライブに来てくれて。サラちゃんで行こうってなって。サックスが入ったこともあってバンドのサウンドが確立されてきて、昨年は1st Albumをリリース。フジロック、中津川ソーラーとか、活動が盛んになりました。今年もCDをリリースする予定があり、より活発になると思います。

–同世代で気になるアーティストいますか?

Reiさん(1993年生まれのシンガーソングライター。ギタリスト。ブルースなどルーツミュージックに傾倒)とか、すごいなと思います。気になるアーティストです。

あと、京陸(キョウリク)! 大阪出身のベースとドラムの超強烈なリズム隊二人組がいて。まだ10代ですが、めちゃくちゃ強烈です。すごいグルーヴで。路上で稼いだお金で生活しているみたいで。渋谷の駅前で路上やってるとこ見かけて、かっこいいなと思って。実はFacebookで既に繋がっていて、あれ? この子たちって渋谷で見た……と、メッセージを送ってみたんですよね。「渋谷でやってたよね?」「そうですそうです、サラさんのめっちゃファンなんです」と。「the day」の京都・磔磔でのライブを観に来てたみたいで。一度呼んで一緒に演奏したんですけど、めちゃくちゃ会場沸かしてましたね。強烈でした。10代にして。

ほかには、、デザレちゃんという黒人のハーフの女の子がいて。まだ17歳の高校生ドラマーなんですが、すごく堂々としたグルーヴで。 自分の妹もドラムを叩くのですが、いいグルーヴだから、ツインドラムでやったら面白いかなと思って、デザレちゃんと妹を一緒に叩かせたりしましたね。

妹はプロを目指してる感じではないけど、才能はすごくて、ぜんぜん練習しなくてもめっちゃ強烈なグルーヴで叩く 笑 どっからでてくるのそれ? みたいな。まぁちっちゃいころから達也さんのドラム聴いてますからね。いま15歳なんですけど。本気でやったらすごいことになるだろうな。

–家族でバンドができる状態なんですよね。

未だに路上や、教会主催のライブとかでよく一緒に演奏しています。

–そんな家族なかなかないですね 笑 ジロキチでもお父さんの作った曲を演奏されたと思うんですが…… 家族の絆があるんだなって。

そうですね。家族の絆は自分の音楽に深く関わっていて。小さいころから演奏してきたことっていうのが今に繋がっていて、その軸があるこその自分のプレイだったりしますね。そこがルーツ。家族と一緒にやる音楽は基本的にゴスペルだから。技術とか言っちゃえばジャンルとかも、そういうのぬきにして気持ちでやる音楽だから、そこはやっぱ自分の音楽やプレイスタイルと深く繋がっているなと思います。

–現在の活動は?

前田サラBAND、BimBamBoom、TAKUROさん(GLAYのギタリスト、キーボーディスト)のソロツアーへの参加、前田サラBANDのメンバーでもある竹内朋康さん(元SUPER BUTTER DOGのギタリスト)主催のMagic Numberなどが、最近の主な活動です。

–TAKUROさんのツアーはどんな感じだったんですか?

インストゥルメンタルのツアーにして、かなり大きな規模のツアーだったと思います。この規模のツアーは初めてだったんで、ドキドキしていました。どんなもんなんだろうというのが正直な思いでした。インストでジャズっていう。わたしジャズをあまり通ってないんで、呼んでくれたひとに「わたしで大丈夫ですか?」って  笑。けれどジャズといってもTAKUROさんのオリジナルだったので、メロディーもキャッチーだしコード進行も難解じゃなくて、自由度もすごく高かったので楽しくできました。音源の通りじゃなくていいよってTAKUROさんも言ってくれて。やればやるほど自由度もバンド感も高まっていきました。TAKUROさんもすごく気にいってくれたようで、TAKUROさん自身も楽しんでいましたし。またやろうよみたいな話しになってます。TAKUROさんは今回の企画で自分のスキルを高め、それをGLAYというバンドに生かすために、貢献するためにやってる、というのを聞いて、いやぁすごいひとだなと……。こういうひとがリーダーだからGLAYはあれほど大きくなったんだなと思いました。

–今後の活動予定とか、やってみたいことは?

いろんなひととコラボしてみたいなという気持ちがあります。
バンドに広がりを作っていきたいなと思っています。

–3月27日のジロキチのライブにむけて一言お願いします

いろんなバンドやプロジェクトをいくつかやってますけど、前田サラバンドは音楽的な面でも、精神的な面においても、一番自分らしさが凝縮されたバンドです。そしてホームであるジロキチでの演奏、音も雰囲気も最高の店なので、ぜひ観にきてください。


インタビュー・構成/金井貴弥 撮影・制作/高向美帆

 

2017年3/27(月)『Soul Meeting vol.1 前田サラBand x KENNEL』
予約(♪3300)当日(♪3800)
【前田サラBAND】前田サラsax 竹内朋康g 寺田正彦key 瀧元風喜b 下久保昌紀dr
【KENNEL】川相賢太郎vo,g 梅村和史g,cho 冨田廣佑cajon,cho

KENNELも素晴らしいバンドです。ぜひお越しください!

【前田サラ -Sarah Maeda-】 http://ameblo.jp/sarahsax/

ゴスペルをルーツに持つSax奏者。2015年12月にビクターからメジャーデビューアルバムをリリース。

自身の前田サラBandの他、the day<仲井戸麗市 ,中村達也 ,KenKen ,蔦谷好位置>、ドラマー山口美代子率いる女ファンクバンドBimBamBoom、ギタリスト竹内朋康主催のMagic Numberなど、幅広く活動中。


【KENNEL】http://kennelmusic.com/
川相賢太郎(写真左、ヴォーカル&エレキギター担当)、梅村和史(写真右、アコースティッ クギター&コーラス担当)、冨田廣佑(写真中央、 カホン&コーラス担当)の3名で結成されたバンドであり、3ピース・バンドとは思えないパワフ ルかつハートフルなサウンドで、斬新ジャンルを確立中です。2013年に1stアルバム「ONE」をリリー スした後、翌2014年2ndアルバム「WEARE KENNEL」をリリース。