JIROKICHI店内奥の、  非常階段の壁/天井/トイレの絵。

「誰が描いたの?」

よくお客様がお尋ねくださいます。

御質問にお答えすべく、2014年出版の書籍『ジロキチ・オン・マイ・マインド』に掲載されました、絵を描いた御本人たちの対談をそのまま公開いたします。 (2017.9)

【石川】1992年頃かな。僕らが美大生の時、一か月かけて壁に絵を描いたよね。毎日描いては始発で帰るという生活だったな。飲んでるミュージシャンに混じってDJしたり遊んだ後に描いたり。

【木村】初めに「ムーンライトトリップ」というコンセプトを決めたんだけど、覚えてる? 完成パーティの時、ヒロナリさんが同じタイトルの曲を演奏してくれたよね。

【石川】マスターは、自由に描いてという感じだったな。僕が主に担当したのはトイレ。あそこにアレがいる、ここに何がいるといった感じで、楽しみながら用を足せるように描きました。

【木村】きっかけは、マスターの友人だったフランス人ジャンさんが経営するカフェの看板を2人で描いたこと。それを見たマスターが気に入って声をかけてくれたんだったよね。

【石川】女子トイレにはジャンさんをモチーフに描いた絵もありますよ。

【木村】僕はワオさんとマスターも描いたんだよね。宗教画によくある、ストーリーに関わった人が描かれているみたいなイメージで。トイレ前の天井あたりには当時30代の若いワオさんがいる。

【木村】描く前にライブを見せてもらったり、打ち上げに参加することでやっぱりテンションは上がったね。足場の板の上に座って特等席で近藤房之助さんの歌を聴いた覚えがある。常連さんが「すし食って来い!」って一万円くれたこともあった!

【石川】当時のスタッフの表さんが夜食を作ってくれて。なまずのガンボって言ったかな? ニューオリンズ料理もあった。たまにマスターも酔っ払って味噌汁を作るんだけど、これがしょっぱくて、しょっぱくて(笑)。

【石川】当時、ジロキチは老舗だと聞いてたし、大人の遊び場っていう印象だったから僕らが行ってもいいのかなって思ってた。

【木村】あったよね、そういう感じ。

【石川】もちろんマスターも大人だし、そういう人たちと絡んだ経験がなかったから。

【木村】マスターは、僕にとって社会とのつながりを作ってくれた最初の人かな。迎合せずに何かを創り出していくという姿勢は、実際に今の仕事にもつながっている。

【石川】アシスタントも頼まなきゃいけなかったし、マスターに足場を組む業者を頼んでもらったり、いろんな人が関わって出来上がっていくのが新鮮だったな。

【木村】学生だったけど、きちんと仕事にしようと思って見積りを見せたら「よし!」って言われてスイッチが入った覚えがある。

【石川】プラス飯はタダで食わせてもらえるし、酒も飲ませてもらえるし、マスターにジロキチの1年間フリーパスみたいなのをもらってライブを見て遊んで帰ったよね。

【木村】その後、学生が出品する現代美術のイベントにスポンサーが集まらなくて困っているという話を、マスターに相談したことがあったよね。そうしたらハイネケンの担当さんと会う席をセッティングしてくれて。壁画を描いた僕らの頼みだからと思って本気で動いてくれたんだ。でも当日ジャケットをびしっと着たマスターと待っていたのに、肝心のアーティスト志望の学生が遅刻してきて。彼らは怒られたし、僕も注意された。自由なことやりたいならそこはまず守れよ!っていうことだよね。一本筋が通ってたよ。

【石川】筋が通ってなきゃ、こんなに長く店を続けられないよ。その意思がスタッフに今も受け継がれているんだよね。

【木村】マスターはセルフ・プロデュースっていうか俯瞰でジロキチを見てたんだろうな。

【石川】ジロキチは、いろんなミュージシャンがいて、常連さんもいて、ひとつの社交場になっているのがすごくいいなって思う。できればずっとこのままであってくれるとうれしい。壁画も地下だから保存状態がいいんだよ。よぼよぼに歳をとった僕らが描き直しに来たりしてね。ビルが壊されないことを祈ります(笑)。そういえばマスターにビルの屋上に連れて行ってもらって、3人でいろいろ話したよね。

【木村】あの時は年齢差を感じなかったな。

【石川】イベントが赤字の時とか、お金が足りない時は自分で日雇いとかして稼いでるんだよって話を直接聞いたね。

【木村】バイトをしながらでも絶対やり続けなきゃいけないって。

【石川】学生の僕らに「やりたいことはやり続けろ!」って言いたかったんじゃないかな。今となってはそう思うな。

≪木村順也 -Junya Kimura-≫
デザイナー/「LIGHTCUBE」代表取締役。 ’01年に多摩美術大学の同窓、林映奈と「LIGHTCUBE」を設立。国内外の壁紙・テキスタイル企業を中心に、コンサルティング・企画・デザイン制作を行う。オリジナルブランドの開発や企業とのコラボ商品も手掛けている。
http://www.light-c.com

≪石川智久 -Tomohisa Ishikawa-/TOMOCHI GREATEST  トモチ・グレーテスト≫
3DCGアーティスト。監督・脚本を務めた ’10年ゆうばり国際ファンタスティックで上映された短編CGアニメ『ペリカン・生ビール』で注目を浴びる。トータス松本が手掛けた「ウルフルズ」のマスコットキャラクター『わいもくん』のアニメ化でも監督・脚本を担当

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『ジロキチ・オン・マイ・マインド -ライブハウス高円寺JIROKICHIの40年-』
Live Music JIROKICHI 40thアニバーサリー実行委員会・編
発行:株式会社Pヴァイン(2014年)
ISBN978-4-907276-25-6